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大分家庭裁判所 昭和55年(少ハ)1号 決定

少年 K・S子(昭三七・一〇・八生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する。

理由

一  申請の理由

少年は昭和五四年五月二五日筑紫少女苑を仮退院して、大分市○○○×丁目×-××(父)K・Tのもとに帰往し、大分保護観察所の保護観察下にあるところ、昭和五五年八月二二日付けで同保護観察所長から戻し収容の申出があつたので審理するに、

1  少年は仮退院に際して犯罪者予防更生法第三四条第二項に定める事項(法定遵守事項)及び同法第三一条第三項の規定により当委員会第二部が定めた事項(別紙特別遵守事項)の遵守を誓約したにもかかわらず、昭和五五年八月二二日大分保護観察所に引致されるまでの間、

(1)  昭和五四年六月二二日午後六時ころ、友人の所へ行つてくると母に告げて外出し、そのまま帰宅せず、その後母親に二度会い金(六千円)をもらつた事実はあるが、この間大分市内の友人A子のアパートに寄宿し、同年七月一二日同観察所長の呼出しに応ずるまで、その所在を明らかにしないでいた(法定遵守事項第一号及び特別遵守事項第四号違反)

(2)  昭和五四年八月一四日深夜友人の誘いにより、外出したまま帰宅せず、同月一六日ころから大分市内の友人宅で知り合つたB(昭和三五年二月一五日生、交通短期保護観察対象者)と同棲生活を送り同月二二日同観察所に出頭するまで、その所在を明らかにしないでいた

(法定遵守事項第一号及び特別遵守事項第四号違反)

(3)  昭和五五年二月三日家出し、大分市内の友人C(交通保護観察対象者)のアパートへ行き、D(○○○高定時制生徒)等男女五人で雑居生活を送るなど不純異性交遊を続け、その後、同棲生活を親から反対され、同年四月六日帰宅するまで、Dと同棲生活を送つていた

(法定遵守事項第一第二第三号並びに特別遵守事項第四号及び第五号違反)

(4)  昭和五五年四月一二日家出し、同年五月二三日までの間一時帰宅したことはあるものの、前記Bのアパートやその他の友人宅を転々としたり、ディスコで知り合つたE(交通保護観察対象者)と交際し、情交関係を続けていた

(法定遵守事項第一号及び特別遵守事項第四号及び第五号違反)

(5)  昭和五五年八月一四日午前一〇時三〇分ころ、母親に映画に行つてくると告げ外出、大分市内のゲームセンターで前記Eに出合い、以後二人で同市内や北九州市内のゲームセンター等に出入りして徒食し、ホテルや友人のアパートを転々としていた

(法定遵守事項第一号及び特別遵守事項第四号及び第五号違反)

ものである。

2  以上のように少年は、仮退院中遵守すべき事項を遵守せず、担当保護観察官の再三にわたる面接指導や担当保護司の適切にして熱意ある指導助言をないがしろにし、その行状は少年院入院前と変るところがなく、無断外泊、家出、素行不良者との交遊や不純異性交遊及び勤労意欲の欠如が認められる。

一方家庭においては、両親ともそろつているが、父親は仕事の関係で長期出張が多く、母親が少年の監督にあたつているものの、母も夜間働いているため、その監督が十分とは言えないが仮退院後両親は少年の更生について配意していたことがうかがわれ、少年はこの配意を無視して自己の意のおもむくままに行動しており、両親も少年の指導や監督に自信を失つており、今後の両親の少年に対する指導監督に期待ができない。従つて少年をこのまま放置すれば、更に、無断外泊、家出、不良交友及び不純異性交遊等が反覆されることは明らかで、引いては犯罪行為へと進展する虞れが十分にあり、保護者の正当な監督に服さないばかりか、その性格や環境からみて、今後保護観察を継続しても少年を改善更生させることは困難であると認められる。

よつて、この際少年を再び少年院に戻すことによつて不良交友、不純異性交遊を絶たせ、少年に自覚と反省を保し規律ある生活態度を培わせ勤労意欲を向上させることによつて社会適応性を身につけさせることが相当と認められるので本申請に及ぶものである。

2 当裁判所の判断

(一)  当裁判所の審理の結果によれば、申請の理由のとおりの事実が認められるほか、少年は、昭和五五年九月三日、鑑別所へ送致され同月一一日試験観察決定に付され、併せて有限会社○○食品代表取締役○○○に補導委託されたが、同月二三日午前一時頃、委託先で生じた軋轢から他の試験観察中の同僚二名(女子)とともに、委託先を飛び出し市内を徘徊後同日夜保護司宅を訪れ、保護司・保護観察官・調査官に説得され、同月二四日午前一時頃、一旦委託先に戻つたが、同日早朝、前記同僚二名とともに再び委託先を飛び出し、あてもなく市内を徘徊し同月二六日前記保護司宅を訪れ、当庁へ出頭した事実が認められる。

(二)  以上の少年の行動を見ると、家出、不純異性交遊等に止り犯罪傾向が強いとは言えないが、これを放置すると将来犯罪に走りあるいはその被害者となるおそれは充分あり、その原因は主として家庭環境から生じた愛情飢餓感と社会への対応及び性格の未熟さにあると考えられるところ、少年と情交関係を続けていたE(当一九歳)が逮捕され、少年自身に今までの生活を反省する余裕が生じたため、試験観察に付し社会内での処遇の可能性を追求したが、前記筑紫少女苑仮退院試験観察決定までの亨楽的生活の影響と少年の反省が深まつていなかつたことから、社会に適応していくうえで解決すべき問題(委託先での軋轢等)から逃避し、短期間で委託先を飛び出したものである。しかし、少年が他の試験観察中の同僚二名とともに最終的に前記保護司を頼つたことは、少年自身の更生の意欲の表れと見ることができ、この少年の決意を家庭、社会からの影響に左右されない強いものにすることが必要である。そのためには、社会内処遇よりもむしろ中等少年院に戻して教育、指導することが相当であるが、前記の少年の更生意欲を考慮するとその収容期間は短期処遇程度(六か月)が相当であると思料する。

よつて、少年を中等少年院に戻して収容することを相当と認め、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、少年法二四条一項三号により、主文のとおり決定する。

(裁判官 豊永多門)

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